有名な詩-高村光太郎

高村光太郎 有名な詩




高村光太郎(たかむら こうたろう)明治16年~昭和31年、東京都生まれ。


高村光太郎 「道程」
僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る

ああ、自然よ父よ 僕を一人立ちさせた広大な父よ

僕から目を離さないで守る事をせよ 常に父の気魄(きはく)を僕に充たせよ

この遠い道程のため この遠い道程のため



高村光太郎 「ぼろぼろな駝鳥」
何が面白くて駝鳥を飼ふのだ。

動物園の四坪半のぬかるみの中では、脚が大股過ぎるぢやないか。頸があんまり長過ぎるぢやないか。雪の降る国にこれでは羽がぼろぼろ過ぎるぢやないか。

腹がへるから堅パンも食ふだらうが、駝鳥の眼は遠くばかり見てゐるぢやないか。 身も世もない様に燃えてゐるぢやないか。

瑠璃色の風が今にも吹いて来るのを待ちかまへてゐるぢやないか。あの小さな素朴な頭が無辺大の夢で逆まいてゐるぢやないか。これはもう駝鳥ぢやないぢやないか。 人間よ、 もう止よせ、こんな事は。



高村光太郎 「あどけない話」
智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ。

私は驚いて空を見る。桜若葉の間に在るのは、切つても切れないむかしなじみのきれいな空だ。どんよりけむる地平のぼかしはうすもも色の朝のしめりだ。

智恵子は遠くを見ながら言ふ。阿多多羅山の山の上に毎日出てゐる青い空が智恵子のほんとうの空だといふ。あどけない空の話である。



高村光太郎 「冬が来た」
きっぱりと冬が来た 八つ手の白い花も消え 公孫樹の木も箒(ほうき)になつた

きりきりともみ込むような冬が来た 人にいやがられる冬 草木に背かれ、虫類に逃げられる冬が来た

冬よ 僕に来い、僕に来い 僕は冬の力、冬は僕の餌食だ

しみ透れ、つきぬけ 火事を出せ、雪で埋めろ 刃物のような冬が来た




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