有名な詩-立原道造

立原道造 有名な詩




立原道造(たちはら みちぞう)大正3年~昭和14年 東京都生まれ。


立原道造「夢みたものは・・・・」
夢みたものは ひとつの幸福 ねがつたものは ひとつの愛 山なみのあちらにも しづかな村がある 明るい日曜日の 青い空がある 

日傘をさした 田舎の娘らが着かざつて 唄をうたつてゐる 大きなまるい輪をかいて田舎の娘らが 踊りををどつてゐる 

告げて うたつてゐるのは 青い翼の一羽の 小鳥低い枝で うたつてゐる 

夢みたものは ひとつの愛 ねがつたものは ひとつの幸福 それらはすべてここに ある と



立原道造「はじめてのものに」
ささやかな地異は そのかたみに灰を降らした この村に ひとしきり灰はかなしい追憶のやうに 音立てて樹木の梢に 家々の屋根に 降りしきつた 

その夜 月は明かつたが 私はひとと窓に凭れて語りあつた(その窓からは山の姿が見えた) 部屋の隅々に 峡谷のやうに 光とよくひびく笑ひ声が溢れてゐた

――人の心を知ることは……人の心とは…… 私は そのひとが蛾を追ふ手つきを あれは蛾を把へようとするのだらうか 何かいぶかしかつた

いかな日にみねに灰の煙の立ち初めたか火の山の物語と……また幾夜さかは 果して夢にその夜習つたエリーザベトの物語を織つた



立原道造「草に寝て……」
六月の或る日曜日に 

それは 花にへりどられた 高原の林のなかの草地であつた 小鳥らのたのしい唄をくりかへす 美しい声がまどろんだ耳のそばに きこえてゐた

私たちは 山のあちらに青く 光つてゐる空を淡く ながれてゆく雲をながめてゐた 言葉すくなく

――しあはせは どこにある? 山のあちらの あの青い空に そしてその下の ちひさな 見知らない村に

私たちの 心は あたゝかだつた山は 優しく 陽にてらされてゐた希望と夢と 小鳥と花と 私たちの友だちだつた




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