有名な詩-島崎藤村

島崎藤村 有名な詩




島崎 藤村(しまざき とうそん)明治5年~昭和18年、岐阜県生まれ。


島崎藤村 「初恋」
まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて 林檎をわれにあたへしは 薄紅の秋の実に 人こひ初めしはじめなり

わがこゝろなきためいきの その髪の毛にかゝるとき たのしき恋の盃を 君が情に酌みしかな

林檎畠の樹の下に おのづからなる細道は 誰が踏みそめしかたみぞと 問ひたまうこそこひしけれ



島崎藤村 「小諸なる古城のほとり」
小諸なる古城のほとり 雲白く遊子(ゆうし)悲しむ 緑なすはこべは萌えず 若草も藉(し)くによしなし しろがねの衾(ふすま)の岡辺 日に溶けて淡雪流る

あたゝかき光はあれど 野に満つる香も知らず 浅くのみ春は霞みて 麦の色はつかかに青し 旅人の群はいくつか 畠中(はたなか)の道を急ぎぬ

暮行けば浅間も見えず 歌哀し佐久(さく)の草笛 千曲川いざよふ波の 岸近き宿にのぼりつ 濁り酒濁れる飲みて 草枕しばし慰む



島崎藤村 「椰子の実」
名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子(やし)の実一つ

故郷の岸を離れて 汝(なれ)はそも波に幾月

舊(もと)の樹は生ひや茂れる 枝はなほ影をやなせる

われもまた渚を枕 孤身(ひとりみ)の浮寝の旅ぞ

実をとりて胸にあつれば 新なり流離の憂(うれひ)

海の日の沈むを見れば 激(たぎ)り落つ異郷の涙

思ひやる八重の潮々 いづれの日にか国に帰らん




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